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2026.10.08 ニュース|イベント

研究成果紹介:サメ肌を模したレーザー微細溝で、溶射セラミックス皮膜の耐摩耗と抗菌を両立  ―プラズマ溶射TiO2/ZnO皮膜で、表面形状が摩耗機構と生体応答を左右することを解明―

サメ肌を模したレーザー微細溝で、溶射セラミックス皮膜の耐摩耗と抗菌を両立

―プラズマ溶射TiO2/ZnO皮膜で、表面形状が摩耗機構と生体応答を左右することを解明―
 

研究成果のポイント

  • 大気プラズマ溶射したTiO2/ZnO複合皮膜にピコ秒レーザーでディンプルとサメ肌状の微細溝を加工し、摩擦・摩耗・抗菌性・細胞適合性を同一の皮膜で評価。
  • サメ肌状の溝は損傷を表面近傍にとどめ、ディンプルは縁から皮膜内部へき裂を進展させることを、摩耗面と断面の観察から解明。
  • TiO2 90 wt%・ZnO 10 wt%のサメ肌加工皮膜で、平均摩耗率が約21%、大腸菌の増殖が約23%低下し、骨芽細胞の生存率は約89%を維持。

 

【成果の概要】

人工関節や歯科インプラントのしゅう動部の表面には、繰返しの摩擦に耐える耐摩耗性と、細菌の付着・増殖を抑える抗菌性が同時に求められます。本研究では、マレーシア国民大学(Universiti Kebangsaan Malaysia, UKM)および上智大学と共同で、大気プラズマ溶射で成膜した酸化チタン/酸化亜鉛(TiO2/ZnO)複合セラミックス皮膜の表面に、ピコ秒レーザーで円形のくぼみ(ディンプル)と、サメ肌を模した平行な微細溝(リブレット)を加工し、摩擦・摩耗、大腸菌の増殖、骨芽細胞の生存率を同じ皮膜で比較しました。その結果、TiO2 90 wt%・ZnO 10 wt%の皮膜にサメ肌状の溝を加工した条件で、平均摩耗率が全条件中で最も低く、大腸菌の増殖も最も抑えられ、骨芽細胞の生存率は約89%に保たれました。皮膜の組成を溶射で、表面形状をレーザーで別々に設計する手法が、耐摩耗と抗菌を一つの皮膜で両立させる道筋になることを示しています。

本成果は、Elsevier社の論文雑誌「Ceramics International」(2026年10月5日オンライン公開)に掲載されました。

 

【発表内容】

背景と目的

溶射は、厚いセラミックス皮膜を組成と膜厚を制御して成膜できる方法です。TiO2は硬さ・化学的安定性・生体適合性に優れ、ZnOは抗菌性をもつため、両者の複合皮膜は荷重を受けるインプラントの表面処理として期待されています。一方、溶射皮膜は扁平粒子が積層した層状組織で、気孔や残留応力を含むため、組成を変えるだけでは耐摩耗性と生体応答の両方を高めることが困難でした。また従来の研究の多くは、摩擦・摩耗と、抗菌性・細胞適合性のどちらか一方だけを評価していました。本研究の目的は、皮膜の組成とレーザーで加工した表面形状の組合せが、摩耗機構と生体応答に及ぼす影響を同一の皮膜で明らかにすることです。
 

研究手法

研究チームは、以下の手順で実験を行いました。

  1. 皮膜の作製と微細加工: TiO2/ZnOの配合が90/10と70/30(wt%)の2種類の皮膜を大気プラズマ溶射で炭素鋼基材に成膜し、ピコ秒レーザー(波長532 nm、パルス幅15 ps)でディンプルとサメ肌状の溝を加工しました。
  2. 摩擦・摩耗試験と損傷観察: ピンオンディスク式の乾式すべり試験(荷重4 N、接触圧 約1 MPa、すべり距離100 m)を行い、試験片は3D造形したオーセティック構造のホルダで固定しました。試験後の摩耗面と断面を、走査電子顕微鏡(SEM)、集束イオンビーム(FIB-SEM)、X線光電子分光(XPS)で調べました。
  3. 生体応答の評価: 大腸菌(K12株)の懸濁液に皮膜を1時間接触させて光学濃度(濁度)を測定し、骨芽細胞の生存率を24時間培養後にCCK-8法で測定しました。

成果

90TiO2–10ZnO皮膜にサメ肌状の溝を加工すると、平均摩耗率は未加工の1.422×10⁻⁴から1.117×10⁻⁴ mm³ N⁻¹ m⁻¹へ約21.4%低下し、全条件中で最小となりました。レーザー加工した4条件すべてで平均摩耗率は未加工より低くなりましたが、これは3回の試験の平均値の傾向であり、統計的な有意差は確認されていません(p > 0.05)。摩擦係数は未加工の皮膜が最も低く(0.195〜0.210)、加工によって下がりませんでしたが、サメ肌状の溝(0.217〜0.227)はディンプル(0.271〜0.334)より低い値でした。断面観察では、サメ肌加工皮膜の損傷は表面近傍にとどまるのに対し、ディンプル加工皮膜では皮膜内部でき裂が分岐・連結していました。

同じ90TiO2–10ZnOサメ肌加工皮膜は、大腸菌懸濁液の光学濃度を対照の0.064から0.049へ約23%低下させました。ZnOを30 wt%に増やした皮膜では増殖の抑制は見られませんでした。骨芽細胞の生存率は全条件で約85〜91%であり、ISO 10993-5が非細胞毒性の目安とする70%を上回りました。これらは乾式すべり、大腸菌1菌種、短期の試験管内試験という条件での結果であり、実用環境での検証は今後の課題です。
 

学術的意義

本研究は、表面の微細加工が摩擦係数と摩耗率に異なる影響を与えることを、溶射セラミックス皮膜で示しました。層状組織と欠陥をもつ溶射皮膜では、縁に応力が集中するディンプルよりも、摩耗粉をすべり方向に排出する連続した溝が有利に働きます。また、今回の試験条件では、ZnOの増量よりも表面形状のほうが細菌の増殖抑制に寄与しました。組成を溶射で、形状をレーザーで独立に設計するこの指針は、他の酸化物系溶射皮膜の設計にも応用が期待されます。

 

【論文情報】

  • 著者: Mahdi Alebrahim, Mariyam Jameelah Ghazali, Yuichi Otsuka, Kiyoshi Ohnuma, Emir Yilmaz, Jo Onozuka, Nashrah Hani Jamadon.
  • タイトル: Laser surface texturing of plasma-sprayed TiO2/ZnO composite coatings: Correlation between microstructure, wear mechanisms, and biological response
  • 掲載雑誌: Ceramics International
  • URL: https://doi.org/10.1016/j.ceramint.2026.10.026

 

【研究助成情報】

本研究は、以下の支援を受けて実施されました。

  • 長岡技術科学大学
  • マレーシア国民大学 研究・機器管理センター(Centre for Research and Instrumentation Management, UKM)

 

【成果の模式図】

【図:(左)摩耗試験片を固定する3D造形オーセティック構造ホルダの設計と実物、(右)レーザー加工したTiO2/ZnO皮膜表面のSEM像(ディンプルおよびサメ肌状溝)】

 

【問い合わせ先】

  • 研究室担当: 大塚 雄市(Yuichi Otsuka)
  • 所属: 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 機械工学分野/システム安全工学分野
  • 責任著者: Mariyam Jameelah Ghazali(マレーシア国民大学)

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