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2026.10.08 ニュース|イベント

研究成果紹介:溶かさずに積層造形した純銅で、バルク材と同等の導電率を回復         ―熱処理で生じる空孔由来ボイドの形成と消滅の機構を解明―

溶かさずに積層造形した純銅で、バルク材と同等の導電率を回復

―熱処理で生じる空孔由来ボイドの形成と消滅の機構を解明―
 

研究成果のポイント

  • コールドスプレーで積層造形した純銅を焼鈍すると、粒子どうしの界面にボイドが生じ、導電率が80% IACS未満まで低下することを発見。
  • ボイドの原因が、転位の回復で放出された過剰な空孔(原子の抜けた格子点)が粒子界面に集まることにあると解明。
  • 焼鈍と熱間等方圧加圧(HIP)を順に行うことで気孔率を0.4%未満に抑え、導電率を約100% IACSまで回復。

 

【成果の概要】

コールドスプレー積層造形(CSAM)は、金属粉末を超音速で基材に衝突させ、溶かさずに固体のまま積層する方法で、酸化しやすい純銅の造形に適しています。しかし、衝突時の強い塑性変形で結晶に欠陥が入るため、造形したままの導電率は約85% IACS(焼鈍した標準銅を100%とする指標)にとどまります。本研究では、インド工科大学マドラス校およびプラズマ技研工業株式会社と共同で、CSAMで造形した高純度タフピッチ銅を350〜950 ℃で焼鈍し、組織と導電率の変化を調べました。その結果、焼鈍だけでは粒子(スプラット)どうしの界面にボイドが生じ、750 ℃で気孔率が最大の1.45%となり、導電率はかえって低下することが分かりました。一方、焼鈍の後に熱間等方圧加圧(HIP、550 ℃・52.7 MPa)を行うと、気孔率は0.4%未満に抑えられ、導電率は約100% IACSまで回復しました。欠陥を取り除くだけでなく、空孔の行き先を制御することが導電率回復の鍵であることを示しています。

本成果は、Springer Nature社の論文雑誌「Progress in Additive Manufacturing」(2026年6月9日オンライン公開)に掲載されました。

 

【発表内容】

背景と目的

純銅は導電性と熱伝導性に優れ、バスバー、送電用導体、電磁シールド、粒子加速器の部品などに使われます。溶融を伴う積層造形では酸化や熱応力によって特性が低下しやすいため、溶かさずに造形できるCSAMが注目されています。CSAMの造形体は緻密ですが、高密度の転位を含むため、導電率の回復には造形後の熱処理が必要です。ところが、熱処理後に気孔が増える現象があり、単相の銅で空孔の過飽和がボイドを生む可能性はほとんど検討されていませんでした。本研究の目的は、焼鈍中に粒子界面で起こるボイド形成の機構と、HIPによる抑制の機構を明らかにし、バルク材に近い導電率を得る後処理条件を示すことです。
 

研究手法

研究チームは、以下の手順で実験を行いました。

  1. 造形: ガスアトマイズしたタフピッチ銅粉末(中央粒径19 μm)を、高圧コールドスプレー装置(窒素ガス、圧力6 MPa、温度800 ℃)でアルミニウム基材上に積層しました。
  2. 後処理: アルゴン雰囲気中で350〜950 ℃・1.5時間の焼鈍を行い、一部の試料には550 ℃・57 MPa・30分のHIPを施しました。
  3. 評価: 走査電子顕微鏡(SEM)と電子後方散乱回折(EBSD)で組織と気孔を、ナノインデンテーションで粒子内部の硬さを、渦電流法で導電率を測定しました。

成果

造形したままの試料は相対密度が約99.3%、導電率が85% IACSでした。HIPを行わない場合、導電率は450 ℃の焼鈍で約94% IACSまで上昇しましたが、550 ℃以上では低下に転じ、950 ℃では80% IACSを下回りました。この温度域では粒子界面のボイドが成長・合体し、気孔率は750 ℃で1.45%に達していました。一方、粒子内部にボイドはなく、硬さは約0.77 GPaまで低下して十分に軟化していたことから、導電率の低下は銅母相の汚染ではなく界面のボイドに由来すると判断できます。

HIPを施した試料では気孔率が0.4%未満に保たれ、焼鈍の後にHIPを行った試料の導電率は約100% IACSに達しました。HIPは、等方圧によってボイドの核生成に必要なエネルギー障壁を高めるとともに、粒子界面を密着させて空孔の吸収場所に変えることで、ボイドの形成を抑えます。なお、本研究は界面の安定性と導電率の関係を対象としており、引張特性や破壊特性の評価は今後の課題です。
 

学術的意義

本研究は、強加工された金属を焼鈍するとき、転位の回復で放出される空孔が結合の不完全な界面に集まってボイドになるという、欠陥の「除去」とは別の過程が電気特性を支配することを示しました。熱処理で転位を減らすだけでは不十分であり、圧力によって空孔の凝集を抑える工程を組み合わせる必要があります。この考え方は、粒子界面をもつ他の固相積層造形材の後処理設計にも手がかりを与えます。

 

【論文情報】

  • 著者: Zaheen Banday, T. Fukanuma, Yuichi Otsuka, M. Kamaraj, Murugaiyan Amirthalingam.
  • タイトル: Role of vacancy-induced void formation and annihilation in the electrical properties of cold-spray additively manufactured pure copper
  • 掲載雑誌: Progress in Additive Manufacturing, 11, 7411–7428 (2026)
  • URL: https://doi.org/10.1007/s40964-026-01742-4

 

【研究助成情報】

本研究は、以下の助成を受けて実施されました。

  • インド教育省(Ministry of Education)およびインド工科大学マドラス校(課題番号:SB20210990MMMHRD008702)

 

【成果の模式図】

【図:コールドスプレー純銅の熱処理によるボイドの形成・粗大化とHIPによる消滅、および各工程での導電率と気孔率の変化】

 

【問い合わせ先】

  • 研究室担当: 大塚 雄市(Yuichi Otsuka)
  • 所属: 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 機械工学分野/システム安全工学分野
  • 責任著者: Zaheen Banday, Murugaiyan Amirthalingam(インド工科大学マドラス校)
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