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研究成果紹介:チタン合金廃材から高機能な抗菌コーティングを創成 ―不純物を制御する新技術で資源循環を実現―
研究成果のポイント
- 切削屑を水溶性チタン錯体へ変換し、溶液・懸濁液ハイブリッド法で高機能膜を形成する独創的手法を開発。
- リサイクル原料由来の不純物(Al、V)を低減することで,ラジカル生成能が保持できることを解明。
- 医療用インプラントや環境浄化機器へ、安価で持続可能な抗菌被膜を提供できる工学的応用を提示。
【成果の概要】
航空宇宙や医療分野で多用されるチタン合金(等)は、製造工程で大量の切削屑(スクラップ)が発生しますが、その再資源化には多大なエネルギーを要することが課題でした。本研究では、これらチタン合金廃材を化学処理によって水溶性チタン錯体へと変換し、これを原料とした「溶液・懸濁液ハイブリッド溶射(S/SHVS)」を用いることで、高機能な酸化チタン()コーティングを創出する新しい資源循環型プロセスを提案しました。研究の手法として、原料に含まれるアルミニウム(Al)やバナジウム(V)といった不純物の挙動を精密に制御し、溶射膜の微細構造と光触媒活性への影響を評価しました。その結果、不純物が存在する条件下でも、プロセスパラメータの最適化により、UV照射によりOHラジカル生成能を持つ被膜の作製に成功しました。本成果は、不純物を排除するのではなく「制御」することで、廃材を高付加価値な機能性材料へとアップサイクルできることを学術的に証明したものです。
本成果は、論文雑誌「Journal of Thermal Spray Technology」(2026年2月4日)に掲載されました。
【発表内容】
背景と目的
持続可能な社会の実現に向け、金属材料の資源循環(サーキュラーエコノミー)が急務となっています。特にチタン合金は高価かつ製造負荷が高い一方で、加工時のスクラップ発生率が非常に高い材料です。従来の再資源化は、再度インゴットに戻すという莫大なエネルギーを消費するプロセスが主流でした。本研究の目的は、チタン合金の切削屑を直接的に高付加価値なコーティング用原料として再利用し、表面処理技術を通じて抗菌・防汚機能を持つ酸化チタン膜を低コストで提供する基盤技術を確立することにあります。
研究手法
まず、市販の合金スクラップを化学的に溶解し、環境負荷の低い水溶性チタン錯体粉末を合成しました。この際、合金成分であるAlやVが不純物として溶液内に残存します。次に、この溶液および粉末を溶媒に分散させた懸濁液を、大気プラズマ溶射(APS)のジェット中に直接注入する「溶液・懸濁液ハイブリッド溶射」を実施しました。成膜された被膜に対し、X線回折(XRD)による結晶相の同定、電子顕微鏡による組織観察、およびルミノール化学発光法を用いた活性酸素種(ラジカル)の定量評価を行い、不純物量と機能性の相関を詳しく調査しました。
成果
研究の結果、リサイクル原料を用いた場合でも、溶射プロセス中の熱分解速度と堆積温度を最適化することで、アナターゼ相とルチル相の比率を自在に制御できることが判明しました。懸念されていた不純物の混入については、特定の条件下では光触媒活性を維持し、強力な抗菌作用の指標となるOHラジカルを安定して生成することが確認されました。これにより、廃材から作製した被膜が、商用の純粋な原料から作られた被膜と同等の性能を有することを実証しました。
学術的意義
本研究の学術的意義は、溶液を用いた液相前駆体溶射において、多成分系の不純物が「欠陥構造」としてどのように機能発現に寄与するかを体系化した点にあります。不純物を不具合の原因とみなす従来の常識を覆し、化学的・熱的なプロセス制御によって不純物の存在を許容する,不純物制御の概念を溶射工学に導入しました。これは、リサイクル素材の利用を前提とした新しい材料設計指針となるものです。
【論文情報】
- 著者:Yuichi Otsuka, Md Mirazul Mahmud Abir, Yoshinori Murakami, Shizu Terao, Yukio Miyashita.
- タイトル:Impurity Control of Ti Complex Solution for Solution/Suspension Hybrid Spray Coating
- 掲載雑誌:Journal of Thermal Spray Technology
- URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s11666-026-02157-x
【研究助成】
NEDO Young Researcher Project,科研費基盤研究(B)(21H01208), ユニオンツール財団助成,TAKEUCHI財団助成,池谷科学技術振興財団助成を受けました.また, JPEAKS(Grant Number JPJS00420240017)の支援を受けました.
【成果の模式図】
【図:チタン合金スクラップから高機能抗菌被膜へのアップサイクル・プロセス】
【問い合わせ先】
・責任著者: 大塚 雄市(Yuichi Otsuka)
・所属: 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 機械工学分野/システム安全工学分野
