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研究成果紹介:3Dプリンティングによる多孔質材料の脆さを克服 ―「気孔ネットワーク」制御により延性を40%向上させる新設計指針を確立―
研究成果のポイント
- 空隙のつながりをネットワークとして捉え、その構造特性で延性を制御する独創的な手法を開発しました。
- 空隙率という「量」ではなく、ネットワーク配置という「質」が材料の延性を支配することを学術的に解明しました。
- 気孔ネットワーク間の分散配置を,フラクタル次元を用いて定量的に表現できることを明らかにしました.
【成果の概要】
3Dプリンティング技術の普及により、内部に複雑な空隙を持つ多孔質材料の製造が可能になりましたが、空隙に起因する「脆さ(低延性)」の克服が大きな課題となっていました。本研究では、材料内部に分散する空隙クラスター(集団)の相互作用を「ネットワーク」としてモデル化し、その接続特性を最適化することで、材料の延性を飛躍的に向上させる新手法を提案しました。研究手法として、空隙間の応力干渉をネットワークの近接性として定義し、シミュレーションと実証実験を組み合わせた結果、特定のネットワーク指標を制御することで、同じ気孔率を維持しながら延性を約40%向上させることに成功しました。本成果は、材料設計のパラダイムを「欠陥(空隙)の排除」から「欠陥ネットワークの最適配置」へと転換させる学術的意義を有しています。
本成果は、Wiley社の論文雑誌「Advanced Materials Technologies」(2026年1月31日)に掲載されました。
【発表内容】
背景と目的
航空機部材や人工関節などにおいて、軽量化と高強度を両立する多孔質材料は極めて重要です。しかし、材料の中に空隙が存在すると、そこに応力が集中し、本来の金属材料が持つ「延性」が損なわれてしまいます。これまでの研究では、空隙の総量(空隙率)を減らす努力が主に行われてきましたが、機能上必要な空隙を維持しつつ延性を高める設計指針は確立されていませんでした。本研究の目的は、空隙同士がどのように影響し合っているかを「ネットワーク」の観点から定量化し、延性を制御する手法を確立することです。
研究手法
研究チームは、多孔質部材内の空隙をパーシステントホモロジーを用いたネットワークで表現するモデルを構築しました。
- ネットワーク解析: 空隙の配置パターンが応力集中に与える影響を、グラフ理論の指標(近接中心性など)を用いて数値化しました。
- 最適化設計: 応力が特定の箇所に連鎖しないよう、クラスター間の接続を「ジグザグ状」に分散配置する設計アルゴリズムを開発しました。
- 実証実験: 3Dプリンティング(レーザ粉末床溶融結合法)を用いて、最適化された構造を持つ試験片を作製し、引張試験とデジタル画像相関法(DIC)による変形解析を行いました。
成果
研究の結果、空隙クラスターのネットワーク特性を最適化した部材は、ランダムな空隙配置を持つ部材と比較して、破断までの伸び(延性)が最大で40%向上することが実証されました。特筆すべきは、材料の強度を維持したまま延性のみを改善できた点です。DIC解析により、最適化された配置では応力集中が局所に留まらず、材料全体に分散することで、亀裂の急速な進展が抑制されていることが明らかになりました。これにより、多孔質材料特有の「脆性破壊」を防ぐことが可能になります。
学術的意義
本研究の学術的意義は、多孔質材料の機械的特性を「幾何学的な空隙率」ではなく「トポロジカルなネットワーク構造」によって定義した点にあります。これは、固体力学とネットワーク科学を融合させた新しい材料評価指標であり、今後、3Dプリンティングを用いた不均質材料の設計において、予測精度の向上と新しい機能発現に寄与する重要な知見です。
【論文情報】
- 著者: R. Toyoba, Y. Otsuka, I. J. Davies, N. Aoyagi, and Y. Miyashita.
- タイトル: Ductility Tuning via Cluster Network Characteristics of Porous Components
- 掲載雑誌: Advanced Materials Technologies
- URL: https://doi.org/10.1002/admt.202501991
【研究助成情報】
本研究は、以下助成を受けて実施されました。
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)(課題番号:21H01208 ,24K00756)
- 日本学術振興会 卓越大学院プログラム
【成果の模式図】
【図:クラスターネットワーク最適化による延性向上のメカニズム】
【問い合わせ先】
・責任著者: 大塚 雄市(Yuichi Otsuka)
・所属: 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 機械工学分野/システム安全工学分野
